文字の大きさ

検索

menu

 

会社の秘密を守るには(第1回)

平成28年10月7日

1.はじめに

 みなさんは、「営業秘密」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 聞いたことがない、あるいは聞いたことはあるけど良く分からない、メーカーだから、営業職ではないから、規模が小さい会社だから「自分たちには、ほとんど関係ない」と思われている方もいらっしゃるかも知れません。たとえば多くの会社では、重要書類にマル秘のマークを付けることが行なわれています。これも営業秘密管理の一つです。

 重要な技術に関する企業秘密が海外のライバルメーカーに流出する大きな事件や、電子データの形で保存された顧客名簿が従業者によって盗まれ、短期間に多くの名簿業者等に拡散してしまった事件、外部からのサイバー攻撃による大量の情報流出などが起きています。これらの状況のもと、不正競争防止法の改正が行われ、すでに2016年1月1日から施行されています。そのなかで営業秘密に関する罰則の大幅な強化がなされています。また昨年、営業秘密管理指針の大改訂(全部改訂)もされています 。もはや、「知らない」「関心がない」では済まされません。

 この講座では、できるだけ平易な言葉で「営業秘密の基本事項」を中心に「あなたの会社の重要な情報を守るために」実務において重要なポイントを複数回に渡って説明して行きます。よろしくお付き合い下さい。
 

2.「営業秘密」とは


図1 営業秘密とは・・・「営業秘密」には技術情報も含まれます。
 みなさんの職場では、仕事に関する大切な情報が「企業秘密」 「マル秘情報」 「極秘ノウハウ」 「虎の子」 など、様々な言葉で呼ばれていると思います。

 それらは、人によって、また職場によって、定義、対象が異なるかも知れません。「営業秘密」は、これらの普通名詞とは異なり、「不正競争防止法」という法律の中で秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報 であって、公然と知られていないものをいう。  (不正競争防止法第2条第6項)」と、定義されています。

 「営業」と付きますが、「顧客名簿など営業マンが扱う情報」、「売り上げ計画など経営に関する情報」などだけでなく、 「技術的な情報を含む」ことを、まず覚えておいてください。

3.権利化(特許などで守る)と秘匿化(ひとくか)


表1 特許化、秘匿化のメリット/デメリット
 みなさんの会社・組織には、必ず「大事なアイデア」や「重要な技術ノウハウ」があるハズです。特許などで「権利化」して守る方法が、まず思い浮かぶかも知れません。それ以外に、特許出願せずに、「他者には、こっそり秘密にして守る方法」 があります。

 「特許化」と「秘匿化(ひとくか=秘密にすること)」メリット・デメリットを対比したのが表1です。

 特許は、とても強い権利ですが、同じ業界の人が実施出来る程度にその内容を世の中に公開しなければなりません。
製造方法等を特許出願した場合、公開によって国内外の他社にたやすく真似されやすく、さらに他社の製造現場に立ち入って侵害行為を突き止めることが事実上非常に困難なことが、デメリットとして挙げられます。

 一方、わが国で13世紀頃(鎌倉時代)から種糀屋(数軒ほどしかない)の代々当主のみが家族といえども知ることができない秘伝として門外不出で一子相伝、守り続けてきたと言われる「もやし」(蒸した米に加える種麹の清酒業界用語)の製法、米国で発明から現在に至るまで130年以上も社内で厳重に秘密にされて来たコカコーラ原液成分(社内では ”Formura” と呼ばれる)などが「永年秘密として守られて(=秘匿化されて)来た重要な企業情報」の例として有名です。

 特許権が「出願後20年で満了」し、満了後はだれでもその発明を利用できるのに対し、これらの食品業界の実例のように営業秘密は、場合によっては永久に秘匿できる可能性のあるメリットがあります。ただし、営業秘密は「一度開示されてしまうと秘密でなくなり、誰にでも使えてしまい、元の状態に戻すことがほとんど不可能な」脆い性質も持ち合わせています。

 したがって、これまで述べてきた「営業秘密」として秘匿するには「適切な管理」が必要になります。さらに、同じ発明についてあとから他者が権利を取得した場合にも、事業としてその発明を実施(準備も含む)していれば、継続して使える様に、日付が特定できる証拠を揃え、「先使用権」(次回以降で説明します)を確保しておくことも必須です。
つまり、両者には一長一短があります。

 ですから、技術情報の内容によって、たとえば、同じ製品であっても、基本原理については特許による保護を受け、製造上のノウハウや材料については営業秘密として保護するという様に、「権利化」と「営業秘密による秘匿化」を使い分けることが必要です。
 

4.我が国の企業情報流出事件


表2 最近10年間に起きた大きな企業情報流出事件
 表2に、ここ約10年の間に起きマスコミ等に大きく取り上げられた企業情報流出事件を挙げてみました。 

 いちばん下のベネッセ事件が、通信教育の会員情報(顧客情報)。それ以外の4件はすべて国外へ企業の重要な技術情報が流出した事件です。とくに新日鐵住金、東芝事件については一民間企業のというより「国家的な損失を伴う」技術流出と言っても過言ではありません。各企業とも大きな経済的打撃、社会的信用低下、企業イメージ低下等の被害を受けています。

 さらに、多くの情報が電子化されている今日では、いったん漏えいした情報は、短期間のうちに広く拡散し、多数の関係者に漏れ、元の状態に戻すことは事実上不可能です。数十年、数百億円かけて開発した大切な技術の成果であったとしても、結果として価値を失ってしまうのです。

 また、表2のすべての事件で、流出に従業員等の「内部者が関与している」ことにも注目すべきです。

5.企業情報を営業秘密として守るには

 営業秘密を侵害した場合、重い刑罰が課せられる場合があります。

 例えば、社員が会社の情報を持ち出した場合に「お前が盗んだ情報は、実は我が社の非常に重要な秘密だったのだ。だから営業秘密侵害罪で、お前を警察に訴えてやるぞ!」 などと「後出し」で言うことはできません。企業は、従業者が事前に、その情報が営業秘密であるかどうかを予測できる様にしておかねばいけません。
 
不正競争防止法で規定されている 「営業秘密」は、

(1)秘密として管理されていること(秘密管理性) 
(2)事業にとって有用であること(有用性)
(3)公に知られていないこと(非公知性) 保有者の管理下以外では、一般的に入手できない状態にあること

の、「三つの要件」をすべて満たすことが必要です。
 
 たとえば、前項で紹介したコカコーラの原液成分(”Formula”)は、(1)、(2)、(3)すべての要件を満たしている「営業秘密」です。
 
 みなさんが秘密にしたいと考えている企業情報は、大抵の場合は(2)の「有用性」、(3)の「非公知性」を満足していると思われます。したがって、裁判等になったときに主として争われるのは、対象となる企業情報について (1)の「秘密管理性」の有無です。表2の事件の被告たちは、「自分が盗んだ会社の情報は、(1)の秘密管理性を満たしていないから営業秘密ではなく一般情報である」と、裁判で主張しています。

6.秘密管理性とは


図2 秘密管理性を確保するための具体例
 裁判等で議論となる「秘密管理性」とは「企業(会社)が、その情報に接することができる者(従業員)に対して「その情報を企業(会社)が秘密として管理しようとする意思を明らかにする」ことです。会社側だけが「重要な秘密」と考え、従業員がそう認識していない状態はダメです。

 具体的には、図2に挙げた様なやり方があります。
書類・図面や電子ファイルに㊙マークを付けることは、以前から多くの皆さんの職場で実行されているでしょう。
 

写真1 金型企業での営業秘密管理の実例
 写真1は、図2 三番目枠の「製造機械や金型など物件に営業秘密が化体(かたい:具体的な形のあるもので表されること)している場合」の金型メーカーの管理例です。

 図2の四番目(いちばん下)の「媒体が利用されない場合」とは、たとえば、業務によって習得した技能・知識が、従業員の(頭などの)中に蓄積されている場合などです。それら無体物の内容を文書化(リスト化など)し、それを有する従業員や関係者に営業秘密と認識させておくことが必要です。例えば、ある従業員が転職した場合に「元の会社で培った自分の特殊技能・高度な知識が営業秘密なのか、そうでないのかはっきり分からず、転職した職場で使って良いかどうか迷ってしまう様な状態」はNGです。

7.参考文献

参考文献
1)経済産業省知的財産政策室 「平成27年度不正競争防止法の改正概要(営業秘密の保護強化)」

2)「改正特許法の概要」New Business Law No.1057 2015年9月

3)経済産業省「営業秘密管理指針(全部改訂版)」平成27年1月28日

4) 特許庁 広報誌「とっきょ」平成27年2・3月号

5)経済産業省 産業構造審議会 営業秘密の保護・活用に関する小委員会(第3回)配布資料(3) など

6)経済産業省 経済産業ジャーナル「営業秘密管理のすすめ」 平成22年7・8月号

7)「中小企業情報漏洩対策に後れ」日本経済新聞2015年10月12日朝刊 法務面

8.関連リンク

9.お知らせ

独立行政法人 工業所有権情報・研修館では、営業秘密・知財戦略相談窓口を開設して、経験豊富な知的財産戦略アドバイザー、弁護士、弁理士を配置し、みなさまのご相談に対応しています。貴社の具体的な状況に応じたアドバイスを希望される場合は、ぜひ窓口相談をご利用ください。
「営業秘密・知財戦略相談窓口」~営業秘密110番~
 
アドビリーダーの入手先へ 新規ウィンドウで開きます。

※PDFをご覧いただくにあたってご使用のパソコンにAdobe Acrobat Readerがインストールされている必要があります。
詳細はダウンロードページをご覧ください(新規ウィンドウで開きます)。

※Adobe Reader,Acrobat ReaderはAdobe社の登録商標です

この記事に関するお問合わせ先

知財戦略部 営業秘密管理担当

電話
(代表)03-3581-1101 内線3841
Fax
03-3502-8916

ページトップへ
ページの先頭へ戻る