文字の大きさ

検索

menu

 

会社の秘密を守るには(第2回)

平成28年10月7日

1.不正競争防止法の改正


図1 不正競争防止法における これまでの営業秘密に関する法改正
 昭和初期に制定された不正競争防止法に、営業秘密の規定が導入されたのは平成二年になってからのことで、当初は民事的な保護だけでした。図1に示すように、その後これまでに何回もの法改正を重ね、営業秘密の保護が強化されてきました。

 会社の営業秘密(前号でご説明した三つの要件を満たす情報資産)が不幸にも流出した場合に、侵害行為が、不正競争防止法の類型(なにをしたら営業秘密の侵害行為になるか)にあてはまれば1)、民事的な保護、さらには刑事的な保護を受けられる可能性があります。
その不正競争防止法について、

 1.秘密情報の不正な取得や使用に対する罰則の大幅強化
 2.営業秘密侵害罪となる対象者や対象行為を大幅に拡大

する法改正が行われ、2016年1月1日から施行されています。
 
 企業間の国際競争が激しくなって行く中で、我が国の産業競争力や雇用の基盤として、企業情報の重要性が大きくなっています。その一方で、前号でご紹介した様に、国家的な財産とも言えるような重要な技術情報の海外への流出事件が相次いで起こるなど、企業情報の漏えいリスクが大きくなっています。

 大幅な罰則強化の目的は、このような状況下で、営業秘密を盗もうとする行為者への抑止効果(犯行を思いとどまらせる効果)を狙ったものです。「不正漏えいが割に合わない社会の構築をめざす」と言うこともできるでしょう。

 図2に、改正内容の概要を示しました。改正後は、図2の右側に示した様に、米国、ドイツ、韓国など法律で厳しい罰則を規定している諸外国と比較しても遜色のない内容になっています 。
 

図2 不正競争防止法改正(本年1月より施行)の概要(刑事罰を主とした抜粋)

2.民事的保護について


図3 営業秘密の民事的保護
 不幸にして営業秘密が流出してしまった場合、以下の請求ができます。

(1)差止め請求: 侵害行為をやめさせる
(2)損害賠償請求: 経済的損失を賠償させる
  
 今回の法改正では、(従来大きな負担であった)原告の立証負担の軽減がはかられています。営業秘密の使用行為は、被告(加害者)の工場内などで行われることが多いため、ほとんどの民事裁判では、原告(被害者)が侵害立証の証拠を持てない実情を考慮して導入されました。

(3)信用回復措置 信用の回復をはかるため新聞への謝罪広告掲載などを要求する

3.刑事的保護について


図4 営業秘密の刑事的保護
 さらに、下記のような刑事罰が適用される場合があります。

(1)一定の営業秘密の不正取得・領得・不正使用・不正開示の行為について
 「10年以下の懲役又は2000万円以下(※海外重課は3000万円以下)の罰金、又はその両方」を科すこと としています。改正によって、罰金刑の上限が他の知的財産権侵害の場合に比べて高くなりました。その理由は、営業秘密は特許権などのように権利化されたものではなく、一度漏えいしてしまうと容易に拡散し、回復が困難で、価値が大きく失われてしまうことを重視したからです。

(2)国外での侵害も対象になります。
 今回の法改正の結果、日本国内の事業者が保有する国内、海外(のサーバー等)に保有された営業秘密の使用・開示・取得行為が対象になりました。

(3)法人の業務に関し営業秘密侵害罪が行われた場合、行為者(犯人)だけでなく、「法人も5億円以下(※海外重課は10億円以下)の罰金」と なり得ます。

※海外重課とは

 流出した営業秘密が海外で使用されると、日本の雇用や経済などへの悪影響が、国内のみの流出よりもずっと大きくなるという判断等から、海外への情報流出を重く見て、今回の法改正で加えられた罰金刑です。
 
 上記の罰則強化のほかにも、以下に挙げたような大幅な法改正が行われたことを知っておいてください。

・犯罪収益の没収:新日鐵住金事件のように、行為者(犯人)への報酬が罰金の最高額より遙かに高い場合もあり行為者の「やり得」にならないようにするために、侵害によって得た報酬・収益等を(民事訴訟とは別に)国が上限なく全額没収することが可能になりました。

・未遂犯も処罰の対象に: 一旦営業秘密が不正取得されれば、インターネットを通じてその情報が瞬時に世界中に拡散されてしまうなど、未遂段階でも実質的価値を失わせる危険性が相当に髙いため今回の法改正で導入されました。

・非親告罪化:告訴がなくても、警察などが独自の判断で捜査をはじめることができるようになりました。

・営業秘密侵害品の流通規制の導入(刑事・民事ともに適用):
技術上の秘密を使用する行為により生じたもの(営業秘密を不正に利用して製造された物品)の譲渡等が、新たに不正競争行為に追加されました。

4.法人処罰について


図5 転職者を受け入れた会社が刑事罰の対象になった(「両罰規定」を適用された)事件
 
 行為者(犯人)だけでなく、企業が刑事罰を科せられる場合があります。

 この法人処罰は「両罰規定」とも呼ばれ、我が国では罰金の上限額が最も重いものです。昨年6月、前職の企業情報を持ち込んだ転職者を受け入れた横浜市の中小企業(従業員50名弱)に、この規定がはじめて適用され、行為者(転職者)だけでなく、法人(会社)も書類送検されました。

 会社規模の大小を問わず、人材の流動が活発になっています。

 経営者は、採用した転職者が他社の営業秘密を自社に持ち込むリスクに、より一層注意することが必要です。我が国の罰金刑の最高限度額が「営業秘密に関する法人処罰」なのですから、会社の重責を担っている経営幹部が「営業秘密なんて、わが社には関係ない」などと、言ってはいられません。

 

5.警察に駆け込む前に

 会社の重要な秘密が盗まれたことが分かった場合、多くのみなさんは、金品の盗難と同じように「すぐさま警察に駆け込み、被害を届け出る」行動を取ろうとするかも知れません。

 でも、その前にちょっと待って下さい。 INPITは、(各都道府県警察を指揮監督する)警察庁と連携しています。いきなり近所の警察署に駆け込む前に、INPIT営業秘密110番(電話03-3581-1101内線3844)、あるいは、専門家(経験のある弁護士、弁理士等)に相談することで、問題解決の糸口が見つかるかもしれません。

 直接警察に相談する場合は、都道府県警察本部の営業秘密侵害事犯担当(連絡先は「秘密情報の保護ハンドブック」 にあります)に連絡するようにしてください。

6.裁判の場合

 また、営業秘密に関する裁判では、裁判記録の閲覧制限や、公開の法廷に傍聴に来たライバル会社の社員に、証拠として提出した自社の営業秘密が知られてしまわぬような特別の措置を取ってもらえることなど、民事、刑事裁判それぞれで訴訟手続における営業秘密の保護措置が講じられています。(そもそも、訴訟手続きにより公開されてしまったら「非公知」の要件を欠き、営業秘密ではなくなってしまいます。)
 
 上記のような措置によって、捜査・裁判の段階で秘密情報の意図しない開示がされる心配がなくなったこと(平成23年12月1日の法改正で秘密性を維持したまま刑事裁判をすることが可能になりました)、そして被害が一企業に留まらないケースなどでは刑事訴訟を行うか否かの判断を一企業に委ねることが適当でない場合もあることなどが、今回の法改正で「告訴の非親告罪化」が導入された背景になっています。

7.他者(社)の情報も守りましょう

 これまで、自分(自社)の情報について述べて来ましたが、他者(社)から伝えられた(開示された)情報についても、自社のものと同様な管理をすることが重要です。共同開発を行うような場合、自社情報と他社情報が混在し、どちらが開発した(あるいは元々持っていた)技術か分からなくなってしまい、誤って他社情報をもとに特許出願してしまったり、学会で他社情報を発表し開示してしまうなど、後々様々なトラブルの原因になります。

 共同・受託研究など、秘密保持契約を交わして受領した顧客や提携企業の秘密情報は、自社の情報と分離して保管するなど、「他社の情報」と、はっきり分かる様な管理をしましょう。他社の製品や発注書が置かれている工場に第三者を入れる際には、必ずプラスチックの遮蔽板で隠すなどを実施している立派な中小企業もあります 。
 

8.退職者と転職者について

 企業情報の漏えいでは、退職者が営業秘密を持ち出すケースが多く見られます。雇用環境の変化にともない、企業規模の大小を問わず人材の流動が活発になり 「人(従業員)による漏えいリスク」が、非常に大きくなっています。

退職者とは、

・秘密保持契約:特定の情報を外部に持ち出してはいけないという義務
・競業避止(きょうぎょうひし)義務: 期間・地域・職種などいくつかの条件のもとで競合他社に転職しない義務

を交わすことがなされます。

 秘密の対象が広範に及ぶような契約は、裁判等で争った場合に契約自体が無効と判断される場合もあり要注意です。企業の人事担当者から「すでに転職先を決めてしまっている退職希望者が、上記契約書への署名を渋るケースがある」と、ときどき耳にします。従業員とは、退職時に秘密保持契約を締結する場合があることを事前に周知しておくことや、社内で新しいプロジェクトを開始した時、異動時、昇進時などの節目ごとに、これらの契約を交わす様にするなどの工夫が必要かも知れません。

 逆に、採用の際にも注意が必要です。
とくに、競合会社の退職者を受け入れる場合には、その企業からの営業秘密漏えいの疑いがかけられる可能性が高いので、じゅうぶんに注意しましょう。

転職者には

・以前の会社と、退職時にどのような約束(秘密保持契約/競業避止義務など)を交わして来たか、内容の確認
および
・前職の営業秘密を、現職で使用しない旨の誓約書を交わす
などをしておくべきです。

 訴訟対策には「相当の注意を払ったことが証明できる程度の対策」が必要です。転職者の持ち込む情報によって、思いも寄らぬ「差止め」、「損害賠償」、「刑事罰」などを受けぬ様に注意しましょう。

9.参考文献

1)経済産業省 「不正競争防止法の概要と改正」
2)渋谷高広 「中韓産業スパイ」日経プレミアシリーズ 日本経済新聞社
3)柿沼重志 「産業競争力の維持・強化のための営業秘密保護法制の見直し」立法と調査 2015.5  No. 364
4)木元修文「営業秘密保護強化に関する最近の政策展開について」2015年1月15日
明治大学知的財産法政策研究所シンポジウム
5)経済産業省 知的財産政策室 「平成27年不正競争防止法の改正概要(営業秘密保護の強化)」
6)津田、伊万里、長井  「平成27年改正 不正競争防止法の概要」 知財研フォーラム Vol.103  P33~
7)産経ニュース 2015年6月1日 など
8)経済産業省 「秘密情報の保護ハンドブック」参考資料3 各種窓口一覧
9)「中小、情報漏洩対策に後れ」日本経済新聞 2015年10月22日 朝刊13面法務欄
10)産経ニュース 2015年4月21日
 

10.関連リンク

11.お知らせ

独立行政法人 工業所有権情報・研修館では、営業秘密・知財戦略相談窓口を開設して、経験豊富な知的財産戦略アドバイザー、弁護士、弁理士を配置し、みなさまのご相談に対応しています。貴社の具体的な状況に応じたアドバイスを希望される場合は、ぜひ窓口相談をご利用ください。
「営業秘密・知財戦略相談窓口」~営業秘密110番~
 
アドビリーダーの入手先へ 新規ウィンドウで開きます。

※PDFをご覧いただくにあたってご使用のパソコンにAdobe Acrobat Readerがインストールされている必要があります。
詳細はダウンロードページをご覧ください(新規ウィンドウで開きます)。

※Adobe Reader,Acrobat ReaderはAdobe社の登録商標です

この記事に関するお問合わせ先

知財戦略部 営業秘密管理担当

電話
(代表)03-3581-1101 内線3841
Fax
03-3502-8916

ページトップへ
ページの先頭へ戻る