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解説:会社の秘密を守るには(第3回)

平成28年10月7日作成
平成30年8月30日更新

1.秘密情報の社内管理体制をつくるには(まずはここから)


表1 営業秘密になりうる社内情報

「解説:会社の秘密を守るには(第1回、第2回)」では、営業秘密の大事なポイントを説明してきました。

「おおよそ分かった。さっそく社内に体制を作って行くべきと思う。でも、いろいろやらなくてはならないことが多そうだ。さしあたって自分の職場で具体的に何から始めたら良いのだろうか?」と、思われている方も多いのではないでしょうか?

(1)「大事な情報の抽出」からスタートしましょう。

 何から手をつけたら良いか分からないときには、まず第一に、「自社の強みとなる情報資産の把握」 (営業秘密として管理する情報の把握)から始めてみてください。

 長年にわたり、しっかりと事業を進めている中小企業の幹部に「あなたの会社の重要なノウハウは、なんですか?」と質問すると、「う~ん」と腕を組んで考え込んでしまい、長い沈黙が続くことが良くあります。そんなとき、既存のチェックシートなど(例えば、参考文献1)を利用して、まず大くくりで会社の状況を見直してみることから始めると良いでしょう。

 皆さんが日常の扱っている情報で、営業秘密になり得る企業情報を列挙したのが表1です。この表の項目を参照しながら、例えば他社と比較して個性が強い製品やサービス、高い売り上げに結びつく特徴的な性質を持つものをピックアップし、その個性や特徴を生み出している要因を分析することで、自社が把握すべき情報が見えてくることでしょう。

 このような「情報資産の棚卸し」の作業を通じて、自社の競争力の源泉となる様な価値の高い情報はなにかを認識(再認識)することができます。営業秘密管理のメリットは、それが“テコ”になって競争力がアップし、会社を大きく変えるきっかけとなる場合があることです。また、これまで活用されていなかった情報資産を社内で共有・活用することの促進にも繋がることもあります。


図1 重要度に応じた情報の管理例

 つぎに、情報のレベル(重要度)を見極めた管理が大事です。

 抽出作業を終えたら、情報のレベルを決定しましょう。営業秘密として管理する場合にもそれぞれの情報の重要度によるレベル分け(図1の例のようにA,B,Cランク)を行い、レベルに応じた管理が必要となります。レベルについては、取引先に対する開示/非開示の方針を明確にし、新入社員から社長・会長に至るまで全社員の認識が統一されていることが重要です。

 他者(社)から開示の要求があった場合に判断に迷ったり、展示会などで売り込みに熱中するあまりつい門外不出の情報を開示してしまったり、技術社員と営業マンでレベルの認識が異なる様な状態は「管理されている」とは言えません。

 前回、「他社の情報も大切に」と述べました。図1のピラミッドA,B,Cランクに加えて他社情報に(たとえば「Xランク」というような)フラグを付けて自社の情報と混在しない様な管理も、実務では重要です。


表2 「社内体制構築」でやること

(2)社内体制の構築

 社内に秘匿したい情報が存在していることがが分かったら、秘密情報であることの表示、秘密情報へのアクセス制限、外部ネットワークからの遮断などの措置を講じるとともに、表2に示したように、


  • 営業秘密管理規程の整備、社内の体制作り、情報管理マニュアルの作成
  • 従業員等との「秘密保持に関する誓約書」、「秘密保持契約書」の整備など

を行う必要があります。規程整備や社内体制の構築、さらには適切な運用が実施されなければ、秘密情報管理の実効性を担保できないからです。

 「立派な規程類やマニュアルは作ったけれど、活動はほとんどしていない」という、職場の実情を伺うことがときどきあります。体制ができたならば、日常的なチェック、教育訓練などが重要となります。

 「人(従業員)が関与する流出」が多いのが現実です。従業員が関与する情報流出として転職や退職に伴うものもあります。従業員の転職を止めることはできませんが、定年を待たずに転職しよう、あるいはライバル企業に転職しようという考えをなるべく持たれないよう、日常的に「不満の解消」などにも配慮し、従業員と良好な関係を保つことは、「秘密情報の管理」の面からも重要です。

 「従業員が辞めたくならないような職場を作ること」は、営業秘密管理に限らない、究極の目標といえるかもしれません。たとえば、高い技能を有する社員の国際的な競技会への出場を会社が全面的に支援したり、会長が意識的に現場に顔を出し一般社員との昼食懇談会を頻繁に行うなどの工夫をし、社員の働き甲斐や勤務先への帰属意識を高め、中途退職者を減らす効果をあげている企業があります。あなたの会社では、どんなやり方があるのか、業種・職場の環境などに合わせ、知恵を絞ってみてください。

 「不幸にして流出事故が起きた場合を想定して、あらかじめ『対策チーム』を作っておくこと」 が、実務において、万一の場合に慌てず迅速な対応をとるのに非常に有効です。

 「転ばぬ先のツエ」 が大事なことは分かるが、なにをしたら良いか分からない場合、私ども、INPIT営業秘密・知財戦略相談窓口と連携しているIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の資料 も具体的で役に立ちますので、参照してみて下さい。自分の会社の実情に適した体制を整え、あまり背伸びをせず、合理的なレベルで管理しましょう!

(3)契約に気を付けて

 みなさんは「なんとなく」契約を行っていないでしょうか?  あるいは「最後のセレモニー」程度に考えていないでしょうか?

 他社との契約については、契約条項の一言一句を十分に確認してから署名して下さい。契約書に慣れておらず 「なるべく避けて通りたい」と思う人が少なくないかも知れません。でも、契約は「他者(社)との約束」を文書化したものなのですから、各条項に細大漏らさず注意を払い納得してから署名・押印して下さい。

 契約書を読むのは面倒くさいから、英語の契約書は苦手だから、早く商売を開始したいからといった理由で、契約書をざっと斜め読みして、分からないところはそのままにして 「なにかトラブルが起きたとしても、そのときは相手との話し合いで解決出来るだろう」と、都合良く解釈して署名してしまう様なことを決してしてはいけません。「不当に自社の開発部分まで取り込まれないか?」、「成果物の他社への販売禁止条項がないか?」なども丹念に確認して下さい。

2.契約は先手必勝

 契約書の文案を相手から貰ってから内容の検討を開始するのではなく、専門家(弁護士)などに相談してあらかじめ自社オリジナルの文書を準備しておいて、個別の契約事案に合わせた修正を適宜加え、交渉内容がある程度具体化して来たら相手に契約書をすぐに出せる様にしておくのが好ましい状態です。

 よく「契約書のひな形が欲しい」と頼まれます。ひな形は「不足の条項がないか、より適切な表現がないか」などのチェック用の参考資料としては有用ですが、ネット等からダウンロードした汎用のひな形をそっくりそのまま転用し、日付欄と甲、乙欄だけ書き換える様な使い方は好ましくありません。

3.ハンドブックをご活用ください

 平成28年2月に、経済産業省から「秘密情報の保護ハンドブック」が発行されました。このハンドブックは、営業秘密を含む秘密情報の保護に関するより良い漏えい対策(※)を講じたい企業の方々に、企業の実情に応じて対策を取捨選択したり参考としていただけるよう、

  • 秘密情報の漏えい対策、
  • 漏えいしてしまった場合の対応策、
  • 各種規程・契約等のひな形、窓口等、様々な対策を網羅的に紹介しています。

※ 漏えい対策(情報を漏らさない様な管理)は、これまで解説してきた営業秘密管理とは別の視点の(さらに厳重な)管理が必要になります。

4.先使用権について


図2 技術情報を営業秘密として管理する場合は、「先使用権」を確保して下さい

 先使用権(せんしようけん)制度は、他者による特許出願時以前から、独自に同一内容の発明を完成させ、さらに、その発明の実施である事業(準備を含む)をしていた者について、法律の定める一定の範囲で、事業を継続することを認める制度です。

 先使用権を主張する企業は、他者の特許出願の時点で、その発明の実施事業を行っていたこと(準備も含む)を証明する必要があります。

 他社の特許出願日前に、研究開発により発明を完成し(その発明を知得し)、その発明の実施事業を準備し、その事業を開始するに至った経緯を証明できるように資料を保管しておくことは、ノウハウとして秘匿化した発明について、確実に先使用権を確保するために極めて重要です。

 先使用の証拠となる資料は、作成時期が客観的に認識できることが最も重要です。日付の証明には、公証人役場での「日付の確定/電子公証」、「タイムスタンプ」、「内容証明郵便」などの方法が使われます。

5.個人情報と営業秘密

 企業の方から「個人情報と営業秘密の関係が分からない」と質問されることがあります。

 「個人情報」とは、法律(個人情報の保護に関する法律 第2条第1項)で


 「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別できるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」


と定義された情報です。

 長年にわたり、社内に集積された顧客名簿には、個人情報が含まれているだけでなく、会社の営業力の源泉とも言え、大切な情報として秘密に管理されていることが多いと思われます。

 個人情報が含まれる顧客名簿等も営業秘密として管理されていれば、それが流出し使用された場合など、名簿を保有・秘匿管理していた企業は差止め請求や損害賠償請求が出来ます。

 しかしながら、企業が秘密情報として適切に管理していなければ、営業秘密としての保護はされないことになります。

 例えば、通信教育を業とする会社において、営業秘密として管理されていた通信教育の顧客名簿が流出した場合、


 営業秘密(=不正競争防止法)の観点からは、被害者は「(営業秘密を侵害された)通信教育の会社」、個人情報保護法の観点からは、被害者は「流出した個人情報の本人(生徒やその保護者)」


ということになりますので、営業秘密として位置づけていた情報の管理には十分に注意せねばなりません。

6.まとめ


図3 「営業秘密を管理する」とは

7.参考文献

(1)東京商工会議所 「企業の強みを活かす ~知的財産の力で会社の成長を~」  2016年2月

(2)情報処理推進機構(IPA)「情報漏えい発生時の対応ポイント集」

(3)森本、石川、濱野 「秘密保持契約の実務」 中央経済社

(4)福井 「ビジネスパースンのための契約の教科書(文春新書)」 文藝春秋社

(5)経済産業省 「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上にむけて~」2016年2月

(6)特許庁「戦略的な知財保護のために~先使用権制度を中心に~」2014年

8.関連リンク

9.お知らせ

INPIT(インピット)では、営業秘密・知財戦略相談窓口を開設して、経験豊富な知的財産戦略アドバイザー、弁護士、弁理士を配置し、みなさまのご相談に対応しています。貴社の具体的な状況に応じたアドバイスを希望される場合は、ぜひ窓口相談をご利用ください。

「営業秘密・知財戦略相談窓口」~営業秘密110番~


[この記事の最終更新日 2018年8月30日]

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この記事に関するお問合わせ先

知財戦略部 営業秘密管理担当

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(代表)03-3581-1101 内線3841
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