100年先も世界中から愛される企業に!世界最高のものづくり企業としての使命

「知的財産」という言葉は、聞いたことはあるし事業に活用出来るかもしれないと思うものの、開発や研究、そして実際に出願等に携わっている人以外には、なかなかにとっつきにくいものかもしれない。
関西の特許出願件数は首都圏に次ぐ規模を占め、その業種も様々である。また多くの国公私立大学でのライフサイエンスをはじめとする先端分野の研究も活発である。
そんな関西で知財活動を積極的に行っているパワーあふれる中小企業のトップは、どのように知財をとらえ、活用しているのか。またその活動の動機付けはどこにあるのか。INPIT理事長が中小企業トップのその動力源について直接取材する。

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取材日 2023年6月1日(木)
千代田空調機器株式会社(以下、千代田空調)
 代表取締役社長 北山 貴靖 様
 取締役     尾崎 真司 様
 商品企画部部長 新田 清隆 様

独立行政法人工業所有権情報・研修館(以下、INPIT)
 理事長 久保 浩三(写真左)
 近畿統括本部 主査 大上 ひかる

世界最高のものづくり企業

INPIT:地球温暖化によって、先進国だけではなくもはや世界中で空調機器の需要が高まる今、御社ではこの時流にマッチングした製品を日々研究・開発・生産されています。長年培ってこられた技術の実績を基盤とし、さらにグローバルな視点も加え新しい可能性にチャレンジし続ける中、知的財産はどのような役割を果たしてらっしゃるのか?ぜひお伺いできればと思います。

千代田空調:よろしくお願いします。おっしゃるとおり、知識・情報・需要…ありとあらゆるものの変化や発展のサイクルが短期化しています。とくに技術面では顕著ですね。そのような中、当社はエアコンをはじめとする空調機器製品に多く使用される製品を研究開発・生産しています。国内はもちろん、現在は中国とタイに海外拠点をおき、世界的なエアコンのニーズの高まりに伴いグローバルに市場を拡大し、成長を続けています。私たちは「世界最高のものづくり」企業であることを誇りとしており、これからも快適と環境を支える使命を果たしていきます。

INPIT:御社は1939年に創業され、長年エアコンパーツ等の製造販売におけるイノベーターとして業界をけん引してらっしゃいます。特に近年感じておられる傾向などはありますか?

千代田空調:中国をはじめとする海外生産や部品調達におけるコストメリット、加えて現在では海外での高度な技術生産も可能になったことなど、様々な外的要因があります。そのような状況下で、いかに他社と差別化を図るかということが急務となっています。私は自社の製品に自信を持っているので、自社製品の付加価値をどのように保証するかというところに知的財産がとても重要であると考えており、そのためには技術や商品企画の段階からしっかりと計画していかなければと思っています。

数で勝負しない

千代田空調:特許の重要性やそのリスクについて認識を強めていた中、そのような意識を私含めて限られた人しか持っていないのは危ういと考えていたので、INPIT様のような公的な相談窓口とこのように繋がれる機会をいただけて非常にありがたかったと思っています。基本的にすべて無料ですし、加えて補助金や色々な支援方策についての情報提供もしてくださるので、中小企業にとっては大きな課題である専門知識や費用面を補うにあたって、もっと早くに知っておけばと思いました。

INPIT:そのようにおっしゃっていただけて嬉しいです。INPITの特徴の一つとして、権利を取得することではなく、各社が持っている強みをどのように価値化していくかを目的としているところがあります。特に中小企業さんに言えることですが、特許出願以外にも利益に結び付ける方法はたくさんありますからね。とはいえ、御社は出願もいくつか出しておられますよね?

千代田空調:そのとおりです。しかしながら、これまでは取れる特許を探して取っていったという傾向があり、弊社は出願の仕方が上手くない…とも感じています。また、どこの中小企業も同じかもしれませんが、開発優先で出願がどうしても後回しになってしまったり。他社との違い・強みを客観的に見せて、それをガードして利益につなげていく。特許だけではなく、ノウハウとの組み合わせや他社とのライセンス、共同開発など様々なやり方をもっと検討したいと思っています。実は出願件数が増やしにくいなとジレンマを感じている反面、増やすことがメリットでもないということも理解しています。弊社のような中小企業は出願数で勝負しない分、いかに「有効」な知財をうまく活用していくかが大切であると思っています。

権利は参入障壁を築く

INPIT:御社は現在も生きている特許をいくつか持ってらっしゃいますね。どのような時に権利を取得しておいてよかったと思われましたか?

千代田空調:たとえば、模倣品の市場流入を特許によって防げた時です。特許無効審判にまで発展しましたが、きちんと対抗でき、権利を認めてもらえたときは本当に権利取得していてよかったと思いました。同時に、その時に改めてビジネス上でのリスクと権利の重要さを認識しました。その経験の中で、単に権利を取得するだけではなくいかに内容が実情にきちんと適用できるかが大切であると実感しました。また、製品が標準化されてしまって、海外のメーカーの安価な製品が市場に流通してしまうと、価値が低下し、値段のみが比較されるものとなります。けれどもユニークな価値を特許にすることでそれ自体が差別化できる当社のコア技術となり、今後新しいマーケットへ進出する際にもきっと心強い支えになってくれると期待しています。弊社はこれからも「機能」「価値」で勝負をしていきたいと考えていますので、知財の活用はこの変革にとって必須となります。

INPIT:知財戦略というと、中小企業がどこまでリソースを割くかの見極めが難しいですね。何年も先の話なので、想定内の分野だけで生きていけるのか、ほかに展開できるのかどうか…なかなか見通すことは容易ではないので、今の立ち位置を守るのと同時に、将来の展開も見据えた上で知財戦略を立てていかないといけません。

千代田空調:異分野への挑戦は今後の成長にとって欠かすことができないので、色々と情報収集もしております。お客様からのニーズ調査に加え、(一社)日本冷凍空調工業会のような業界団体から消費動向や基準化の情報を集め、この方向に何か進むんだったら我々にも何かできることがあるんじゃないか…と。ただ情報漏洩が心配だったり、都度NDAを結ぶというのも難しいので、そうなると日々知財の問題と戦っていることになります。

新たな100年に向けた組織づくり

INPIT:御社内の知財の体制はどうなっているのでしょうか?

千代田空調:正直、知財については開発者任せでした。しかし先述したとおり知財を大切にしていかなければいけないという意識改革のフェーズに来ており、INPIT様とのつながりができたことをきっかけにもっと組織として知財の知識を習得して対応していかなければいけないと思っています。これまでは知財戦略や管理ができておらず費用も回せていなかったのですが、知財に関する予算についてはもっと使ってよいという社内コンセンサスを得ています。規定や社員のルール意識も含めて、徐々にINPIT様の協力を得ながら組織を再構築していきたいと思います。

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INPITによるJ-PlatPat説明会の様子。多くの従業員の皆様にご参加いただきました!

INPIT:知的財産というと権利化されて初めて成果物として分かるところがありますから、それ以外のところは担当者以外理解することは難しいですし、問題が起こって初めて必要性が分かることも多いと思います。IPランドスケープなども活用しつつ、特許情報ってこういう使い方もあるんだ!というような、新しい見え方もお伝えできれば幸いです。

千代田空調:若手育成支援をもっと盛り上げていきたいと思っているのですが、学ぶ機会というのはあるようで無いのです。ぜひそういう知見を既にお持ちのところに協力してもらって弊社が目指す姿により近づくことができればと思っています。2023年は組織運営の基礎となる人を育て、社内の仕組みを見直し、付加価値の高い業務にパワーシフトを開始する契機の年でした。「共存共栄」…これは会社としての中期ビジョンでもあるのですが、100年続く企業として、価値のある製品を供給するために常に考え、行動し続ける組織であり続けたいと思っています。そしてその次の100年も世界中の人々から愛される企業グループになるという目標を実現するためにも全社一丸となって取り組んでいく所存です。

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