知財で守る!優良インフラ企業が持つ確かな技術

「知的財産」という言葉は、聞いたことはあるし事業に活用出来るかもしれないと思うものの、開発や研究、そして実際に出願等に携わっている人以外には、なかなかにとっつきにくいものかもしれない。
関西の特許出願件数は首都圏に次ぐ規模を占め、その業種も様々である。また多くの国公私立大学でのライフサイエンスをはじめとする先端分野の研究も活発である。
そんな関西で知財活動を積極的に行っているパワーあふれる中小企業のトップは、どのように知財をとらえ、活用しているのか。またその活動の動機付けはどこにあるのか。INPIT理事長が中小企業トップのその動力源について直接取材する。
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取材日 2020年11月20日(金)
株式会社光明製作所(以下、光明製作所)
 代表取締役     金村 時喜さま(写真右)
 執行役員兼技術部長 階元 鳴彰さま
 総務部 総務課   金村 実香さま

独立行政法人工業所有権情報・研修館(以下、INPIT)
 理事長    久保 浩三(写真左)
 近畿統括本部 大上 ひかる

お客様の声をすぐアイデアにして製品として反映、権利化

INPIT:御社には当方サービスを幾度もご利用頂き、知財に関しての造詣も深いと思われますが、そのような知財に対する意識はどのように醸成されたのでしょうか。

光明製作所:当社は分水栓、止水栓、継手など給水器具製造販売およびポリエチレン管を利用した仮設配管レンタルを事業の主軸としており、主要販売先は各水道局です。営業担当がそれぞれのお客様から常に課題や要望を伺ってくるのですが、そのお困りごと課題や要望を解決しようとする中で特許の基となり得る様々なアイデアが生まれてくるのです。そのような状況でしたので、特許出願は積極的に行うのが自然な流れでした。お客様の声をすぐアイデアにして製品として反映し、権利化を図ることができるのも、我が社が製品開発・鋳造加工から組立、検査まで社内で一貫した製品作りをしているからですね。外注してしまうとこうも融通は利かないと思いますし、権利化を行う上でもっとたくさんのハードルがあるかと思います。

弁理士とのコミュニケーションが課題

INPIT:まさに自社内で一気通貫している環境が功を奏しているのですね。そうすると御社内で知財に関するノウハウはかなり蓄積されているかと思うのですが、どういった課題があってINPITを利用されるようになったのかお聞かせ頂けますか。

光明製作所:当社のあるテクノステージ和泉という工業団地は様々なものづくり企業が集まっており、もともと知財を積極的に活用していく風土だと思います。当社員がこのテクノステージで開催されたセミナーを聴講した際に、INPITの方が講師として招かれており、そこでINPITという組織を知ったのが始まりです。その当時の課題というのが、当社担当者と弁理士とのコミュニケーションでした。当時も国内や海外に向けての出願を行っていたのですが、どうも相互の意思疎通がうまく取れていないと感じる場面が何度かありましたので、そこを改善出来ればと思い、まずは既存権利の検索の仕方などをイチから改めて教えて頂きました。またINPITの専門家の助言によって、権利化以外にも自社にどういうノウハウが積み重なっているかの棚卸しもしましたので、今後も引き続きノウハウ管理の仕方を社内規則や社内契約等について改善していくつもりです。
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経営方針に基づいた知財の活用方法が知りたい

INPIT:社内で出来る範囲のことはある程度こなせるようになると弁理士とのコミュニケーションもよりスムーズになりますし、コストダウンにも繋がりますね。また、私も弁理士資格を持っているので分かるのですが、「出願」することに比重を置く弁理士も数多くいますから、オープンクローズ戦略含め、知財をどう売上げや経営戦略に繋げていくかということが社内で仕分けが出来るようになると、それはとても大きな強みになると思います。

光明製作所:他業界に負けないくらい水道業界でも特許やノウハウは数多く存在しますから、そこは企業活動を続けていく限りやらなければいけない事ですね。ただ正直なところ、多くの中小企業では知財という独特の分野で大手企業に対抗するのは難しく、時間・人材のリソース不足がストッパーとなって、新たな発想はあるのにそれを育てていく土壌がないというジレンマを抱えています。中小企業には利用者・施工業者等を含め現場との距離が極めて近く、現場のアイデアを実現するための社内プロセスも短いというメリットがあるので、全社員が続々と発想を出し合い、育てていける環境を整えていかなければと思っております。また水道業界自体が規格の問題もあり、海外に対しやや閉鎖的なところがあるのでなかなか海外展開が難しいという事情があります。さらにせっかく海外で特許を取得して展開しても、その展開先で違法に真似されてしまうと中小企業では対応しきれない事も多いというのが現実です。そういった数ある課題に対応するため、まずは社内組織としての知財対応について、今は社員にどんどん勉強させて力をつけさせなければならないという覚悟を持っていますので、INPITの専門家には経営方針に基づいた知財の活用方法、具体的にはどう儲けていくのかというところを主軸に色々とご指導頂ければ良いですね。また、何か困ったことがあった時は中小企業のセカンドオピニオン的な存在となって、「出願するか/しないか」ではない、ビジネスの視点からのアドバイス・評価を頂ければ助かります。

現場のニーズに応えたものづくりには必然的に知財が関わってくる

INPIT:社長のおっしゃるとおり、知財分野で尽力されている中小企業には未来を拓くアイデアが日々生み出されていると私達も実感しております。そんな皆様のお力になれるように私共も「現場」をもっと深く知っていかなければいけないと改めて実感いたしました。

光明製作所:現場の声というのは本当に大切で、それを聞いていないと自信を持って戦いを挑むことが出来ないのではないでしょうか。水道業界というのは発注元がどうしても既存のメーカーで継続的に依頼することが多いので固定化しやすい傾向にあります。そんな中でも当社は「お客様に役立つ会社でありたい」という理念のもと、これまで新しい挑戦をし続けてきました。その挑戦が実を結ぶことが出来たのも、現場でお客様からのお困りごとや改善点を全て受け入れ、それらを自社内で解決出来る手段を持ち合わせていたからです。この現場のニーズにお応えしながらモノづくりをするという「変化」や「創造」の過程には必然的に知財が関わってきますから、今後の事業継続・発展にはまず欠かすことが出来ません。

生み出されたアイデアを国全体で「育てていこう」

INPIT:知財活動が実を結ぶためには、アイデア出しの環境とそれを育てる土壌のどちらも充実させていかなければならないということですね。

光明製作所:その通りです。中小企業以外にも、例えば日本のベンチャー・スタートアップ企業にも同じ事が言えると思います。ベンチャー・スタートアップ企業は新しい発想の塊であり、どの企業も大変面白い技術や構想を持っているにも関わらず、日本は海外に比べて実現に繋がりにくいのではないかと私は感じております。ベンチャーキャピタル(投資分野)は育ってきてはいるのですが、それを支援する文化が特に弱いのではないでしょうか。日本には皆さんが思うより費用や労力に耐えうることの出来る中小企業、ベンチャー・スタートアップ企業は決して多くはないので、そのような未来を担う企業が潰れてしまいそうな時に、すぐに助けることが出来る企業や組織がもっと日本中に増えたら良いですね。生み出されたアイデアを国全体で「育てていこう」という意識を持つことが、日本企業がこれから成長と発展を遂げるか否かの大きな要因となり得ると思います。

(文・写真=大上ひかる)