配管用機器のパイオニア企業!創業者から現社長まで受け継がれた技術と発展

「知的財産」という言葉は、聞いたことはあるし事業に活用出来るかもしれないと思うものの、開発や研究、そして実際に出願等に携わっている人以外には、なかなかにとっつきにくいものかもしれない。
関西の特許出願件数は首都圏に次ぐ規模を占め、その業種も様々である。また多くの国公私立大学でのライフサイエンスをはじめとする先端分野の研究も活発である。
そんな関西で知財活動を積極的に行っているパワーあふれる中小企業のトップは、どのように知財をとらえ、活用しているのか。またその活動の動機付けはどこにあるのか。INPIT理事長が中小企業トップのその動力源について直接取材する。

インタビュー画像1
取材日
2021年10月28日(金)
レッキス工業株式会社(以下、レッキス工業)
代表取締役社長               宮川 一彦さま(写真左)
商品開発部 商品開発1グループチームリーダー 品川 肇子さま
独立行政法人工業所有権情報・研修館(以下、INPIT)
理事長 久保 浩三(写真右)
近畿統括本部 大上 ひかる

創業96年に受け継がれる創業者の思い

INPIT:私としましては、宮川工具研究所設立からどのようにして今の「レッキス工業株式会社」に素晴らしい技術が受け継がれてきたのか、とても興味があります。

レッキス工業:当社は、前身である「宮川工具研究所」が1925年(大正14年)に創立され、今年で創業96年、もう少ししたら100年を迎える会社です。
創業者である私の祖父は、当時貿易会社で工具の輸入販売をしておりました。その中で「輸入品は高額だ!国産でいいものを作らなければ!」と一念発起し、手回しグラインダーといった手工具を製作販売したのがはじまりです。そこからガソリンのトーチランプCOBRAや電動ねじ切り機械を製造・販売し、今のレッキスの主軸である配管機器に繋がってゆきます。
また、当社の特徴の1つとして、障がい者雇用があります。当社が初めて障がい者を採用したのは、日中戦争が始まった昭和13年です。当時は戦渦で人手が足りない状況でした。創設者が聾学校を見学させて頂いた際、皆さんがとても勤勉に励んでいらっしゃることに感動し、ぜひ一緒に働きたいと思い、障がい者雇用をはじめました。その思いは今もしっかりと引き継がれています。

INPIT:御社の事業はインフラに関わってくるので、戦時下であっても様々な要望に応えなければならなかったのですね。

レッキス工業:その通りです。そういった継続的な企業努力もあり、おかげさまでレッキスというブランドは配管機器業界では広く知られるようになりました。また、阪神淡路大震災の後「耐震」という世の中の転換期に遭遇した際は、ちょうど我々がこれからは鉄パイプから樹脂パイプに変わっていくだろうと準備をしていた時でした。このように、時勢に合わせた企業努力によって、お客様との繋がりが新たに広がり、また深まったのだと感じております。

顧客の要望に応える独自技術の開発と知財の権利化

INPIT:色々研究開発をされて新しい商品を次々作っていらっしゃいますね。この部屋の中にもたくさんの特許証や商標登録証が飾られていますが、どういった過程で権利を取得されているのですか?

インタビュー画像2
▲室内には多数の登録証が飾られている。中には68年前のものも!


レッキス工業:当社のソリューションが権利に繋がっていることが多いです。技術的な課題を解決する手段といえばよいでしょうか。
例えば先ほど鉄から樹脂にというお話をしました。しかし消火配管やビルのスプリンクラーとなると、当然火事が起きた際に水を配らないといけないので、樹脂より鉄の部材が適当です。そうするとその鉄の部材を樹脂並みに耐震補強しなければいけませんが、そこで、世界初の可搬式ねじ転造機といった独自技術を開発し、特許を取得しました。このようにある課題に応えようとすると新たな発明が生まれ、それを権利で保護しています。

INPIT:競合品はないのですか?

レッキス工業:ありませんね。特許を取得しているので出てこられなかったことに加えて、簡単に真似できない技術であること、そして自社内でノウハウをしっかりと蓄積していることが理由として考えられます。それに支えられた独自技術が現在のメーカーとしての強みであり、レッキスというブランドを支えています。
ただ、商標でいうと、例えば韓国でラックスとかロックスというような偽物が一時出たりしました。

INPIT:そこは世界中に展開しているからこその悩みですよね。

レッキス工業:なかなかマーケットとの兼ね合いが難しい。国毎に需要が異なりますし、特に途上国では権利を取得してもそれがどれだけ法的に有効であるかも分かりません。先行投資で見境なく海外に出願して、とんでもなくお金を使いながら何の成果もなく、そのまま捨ててしまう・・・なんていう他社さんの失敗事例もありますしね。権利ももちろん大事ですが、ノウハウと組み合わせながらガードしていくのがベストだと思っています。何を特許にして、何をノウハウにするのか・・・つまり「訴求点」をどこに持って行けば良いのか?ということは常に全員が意識しています。

「非常識で考えろ!」という開発精神と人材育成

INPIT:知財担当者の育成については、どのように考えておられますか?

レッキス工業:今は開発部門の女性担当者ひとりで全て行っているので、どう次世代を育てていこうか彼女と色々話をしているんです。彼女のように、色々な情報が集まりやすい部署にいて、関連部門の人ともしっかりと話ができる人材が適任だと感じています。

INPIT:知財担当者がいない場合、開発担当者自身あるいは社長自ら知財業務をされている場合が多々あります。しかしご多忙ゆえ社長自ら海外進出について相談に来られ、問題点を解決しながら契約にこぎ着けるんですが、その時点でおしまいみたいな。実はそこで終わりではなくそこからがスタートなので、お忙しい皆さんに伝わるように私たちも伝え方を工夫しなければいけないと痛感しています。

レッキス工業:当社はほぼ毎年複数の出願案件があるので、知財担当者がいなかったら大変な事になります!今でさえ商標の整理が大変なのに・・・。当社では私自ら「特許はどうなっているんだ」と声をあげていますし、会社としても知財権利化に予算を取っているので、知財に対する意識は比較的高いのだと思います。

INPIT:そのような高い知財意識のルーツは、社長のこれまでのご経歴によるものですか?

レッキス工業:私自身、現職に就くまでは開発・商品企画部門にいる期間が長かったからでしょうか。
今でも「開発にいる人間はとにかく非常識で考えろ!」とよく言っているのですが、そこから生み出されたものを守る術として知財は欠かせません。何かやりたいことがあれば、今できる・できないではなく、世の中の様々な技術を組み合わせていけばきっと解決出来ると思うんですよね。また、とてつもなく速いスピードで変化していく世の中でも、業界をリードできる企業に成長していきたいので、つねに常識にとらわれないことを大切にしています。

INPIT:その意識もあって、御社では馬や養殖関係など新規事業にも色々注力されていらっしゃいますね。昔からずっとやっているコア技術の配管と新しい事業との両輪でうまくバランスを取っていくためにも知財は重要ですね。

IPランドスケープの活用

レッキス工業:新規事業ではビジネスパートナーと手を組む方が有益な場合も多いです。自社で技術開発をするのも当然大切なんですが、自社だけでは進出できない業界にそれぞれの会社の強みを活かして協業することによって、お互いwin-winの関係を築くことが可能になります。

INPIT:その場合だと「IP(知財)」で「ランドスケープ(景色)」を見渡すということで、経営戦略を考える上で知財に関するデータを活用するという手法もあります。

レッキス工業:大企業では結構やっているところが多いかもしれませんが、じゃあ本当にそれで経営そのものが変わっているかというと、断言できないですよね。結局は現場の人間だけがIPランドスケープを利用して、実情を知っているだけというか。むしろ私たちのような中小企業の方が経営への適用が早いかもしれない。
また、新しい事業の将来性を知財の探索・調査で見える化できるのであれば、新しいビジネスパートナーとの新規事業創出を考えるとき、データベースを活用して協業先の検討ができるという考えがどんどん浸透していけば、協業でのモノづくりが更に発展するだろうと期待しています。

(文・写真=大上ひかる)