知っておきたいビジネスシーン・テーマごとの知財トラブル~困る前にINPIT~

ビジネスの現場ではあらゆる場面において、知財が深くかかわっています。
本ページでは毎年12万件以上の知財に関わるあらゆる相談を受けつけているINPITが事例とともに紹介および注意ポイントを整理し、リスクを未然に防ぐためのポイントを丁寧に解説します。
「これって大丈夫?」「うちのケースも当てはまりそう…」と感じたら、どうぞお気軽にINPIT知財総合支援窓口あるいは各種専門窓口までご相談ください。

※掲載テーマは今後も順次拡充していく予定です。

事業承継

会社等の事業承継では、従業員などの人材や設備などの有形資産の他に、特許権や商標権などの産業財産権、更には、技術やノウハウなどの無形資産(=知的財産)の移転も必要になる。産業財産権の移転については、定められた手続きに従って対応すればよいが、事業承継時の混乱を背景として、失念や手続きミスが発生する可能性があるため、承継スケジュールを踏まえ、入念に準備しておく必要がある。

また、親族間の承継ではなく、事業承継元の状況が分からない第三者への事業承継の場合には、権利化されていないノウハウ等を含め、あらゆる知的財産の正確な把握による「見える化」、更には他者の知財を侵害していないという知財リスク評価を得ておくことが、事業承継交渉を円滑に進めるため、また、承継後の事業が円滑に進んでいくために、特に重要となる。下記の事例にもあるが、改めて知財権を精査すると既に満了を迎えていたり、更新を忘れてしまっていたりと、権利が失効していることが判明するケースもある。また、ノウハウや顧客リスト、契約条件等が明文化されず経営者や担当者の頭の中だけに存在する場合もあり、承継前にノウハウ等を含めた知財の棚卸し、更には知財リスク評価も含め、事業承継先が知財を安心して有効活用できる土台作りも重要となる。

その上で、現在の経営者と承継者間で密なコミュニケーションを図り、承継する知財と承継しない知財を選別するとともに、その価値を正しく評価することにより、円滑な承継に繋げることが可能になる。

1.知的財産権にかかる名義変更・譲渡手続き

法人名義で特許等の知財を所有し、同法人内で経営者が交代する場合は問題ないが、社長等の個人名で権利を所有している場合や個人事業の場合には、名義変更等の手続きが必要となる。下記の事例にあるように、個人事業で権利を持っていた社長等が亡くなった場合には、後継法人(後継者)等への承継の前に、知財権の相続が入ることになるため、価値評価を含め手続きが複雑になる。

事例①経営者の急逝に伴う諸手続きの発生
  • 業種:技術サービス業
  • 従業員数:5人以下
  • 問題の所在:
    個人事業を行っていた経営者(相談者の兄弟にあたる)が急逝したため、急遽事業を引き継ぐことになったが、特許権や商標権は亡くなった兄弟の個人名で取得されていた。特に商標権については、更新時期が迫っていた。
  • INPIT の支援:
    特許権等の移転は、亡くなった兄弟の配偶者等が相続するため、まず相続手続きを経て、次に相談者への移転手続きという2段階の手続きが必要となる旨説明。更新時期が迫っている商標権もあることから、早急に専門家たる弁理士に相談すべき旨助言。
事例(1)
事例②事業承継に向けた商標権移転準備
  • 業種:卸・小売業
  • 従業員数:5人以下
  • 問題の所在:
    予定されている事業移転に伴い、商標権の移転手続きが必要となるが、手続きの流れや必要書類の理解が不十分。
  • INPIT の支援:
    現在の商標権者の行うことのできる手続きとして、特許庁に対する移転登録申請、譲渡証書や印鑑証明書の準備、更に、必要に応じて、譲渡後の商標権の使用権利条件等に関して事業移転の契約書に明記する場合もある点について具体的に説明。
2.知財の見える化・磨き上げを通じた事業価値向上

事業承継交渉に当たり、技術・ノウハウ、顧客リストなどあらゆる無形資産を見える化し、必要に応じて、それら無形資産の管理ルールの整備やリスク評価等を通じて、後継者が事業(会社)の価値を理解し、客観的に評価できるようになる。知財 の見える化を進めるに当たっては、専門家のサポートも得ながら、特許等技術情報や競合状況、市場情報を融合して経営判断の材料とするIPランドスケープ※の活用や知的資産経営報告書の策定なども有効である。また、既存の契約については、問 題点があれば、承継前に解消・見直しをしておくことが重要である。
※IPランドスケープは事業買収など、事業を引き継ぐ側が自社の事業戦略・知財ポートフォリオを踏まえ、事業継承元の知財等を評価する際に用いられることも多い。

事例③ノウハウ等無形資産の見える化
  • 業種:卸・小売業(飲食)
  • 従業員数:6-20人
  • 問題の所在:
    後継者不在の中で事業の将来に不安を抱えており、事業承継を検討している。円滑に引き継げるように、目に見えにくい技術やノウハウの無形資産を含め、事業価値を見える形で整理する必要がある。
  • INPIT の支援:
    権利化された知的財産権(特許権・商標権等)だけでなく、レシピや業務フローといった無形資産の整理・文書化、更に「営業秘密・ノウハウ保護」の視点からの管理体制構築について助言。
事例④管理が不十分であった特許権や商標権の整理・磨き上げ
  • 業種:製造業
  • 従業員数:6-20人
  • 問題の所在:
    相談者(社長)は事業承継の検討をしているが、家族ではなく第三者への事業譲渡を考えている。企業価値の評価に知的財産の評価も盛り込みたいが、その手法について知見がないことに加え、過去に取得した特許権の多くが満了を迎えてしまっていること、登録商標と実際に事業で利用している商標が異なることなどの問題を抱えている。
  • INPIT の支援:
    IPランドスケープ事業等を活用しつつ、相談者の会社の経営状況、商流および開発・製造体制、 知財権(特許権および商標権)、業界動向・競合他社知財権(特許権)などを総合的に分析・見える化した上で、事業価値向上のための特許権の新代謝やブランド戦略の再検討含め、事業承継に向けた対応を提案。更に、現在相談者(社長)に集中している市場ニーズ分析力、課題解決力(技術・ノウハウ)を早期に承継するための社内体制構築についても助言。
事例(3)
事例⑤後継者の円滑な事業活動のための既存契約等の棚卸し
  • 業種:製造業
  • 従業員数:5人以下
  • 問題の所在:
    社長の高齢化により事業承継が差し迫っている中、特許ライセンス契約の内容で不明確な部分があることが判明。契約満了後の秘密保持義務等の扱い等 が課題となっている。現在ライセンス技術は実施していないが、秘密保持義務が残ると後継者の事業活動に支障を起こしかねない。
  • INPIT の支援:
    ライセンス契約の満了時期と満了後の秘密保持義務の有無等の内容を確認いただくとともに、契約終了に向けた書類提出の方法を説明。
3. 口約束による取引の解消・営業秘密管理等の明文化

中小企業のビジネスでは、取引先との取引条件が社長同士の口約束や長年の習慣でなんとなく決まっている場合も多い。また、事業・業務を行うためのノウハウ、業務ルール、機微な情報の管理ルール(営業秘密管理)等が明文化されておらず、承継後の事業遂行に支障をきたす可能性もある。

事例⑥口約束による取引の明文化
  • 業種:製造業
  • 従業員数:6~20人
  • 問題の所在:
    相談者が経営する会社の親族への事業承継を控え、経営者(相談者)の「信頼」や「口約束」に基づくこれまでの取引形態を見直したいとの相談あり。海外(アジア)メーカーとの取引において契約書が不十分であることに加え、これまで納品先と結んでいた秘密保持契約(納品先のライン情報等の秘密保持)は、自社に読み込める人材がいないことから実質的に内容の確認ができておらず、また情報の管理体制も不十分であった。
  • INPIT の支援:
    現在の取引形態(相談者に有利と見える内容)を明文化することを基本として契約書などの形で見える化しておくことが重要であり、また秘密保持契約(NDA)については、契約相手の提示するひな形を鵜吞みにすることのリスクと自社でひな型を構築しておくことのメリットを説明。更に、将来的な従業員の退職の可能性も踏まえ、マル秘ハンコの活用や電子ファイルのアクセス制限など、営業秘密管理体制の構築について助言。
事例⑦社長の頭の中にあるノウハウ等の明文化
  • 業種:製造業
  • 従業員数:5人以下
  • 問題の所在:
    子供への事業承継予定であるが、これまで取引先との取引条件や口約束で、更に事業に必要な知識・技術・ノウハウは全て相談者(社長)の頭の中にしかない状況であった。
  • INPIT の支援:
    他社との取引条件や事業に必要な知識・ノウハウ等を明文化することと明文化したものを営業秘密として厳重に管理するための規程を整備することの重要性について助言。
4. 権利の失効・更新漏れ対応

事業承継の準備を進めるため、産業財産権の状況確認を改めて行ったところ、有効と思っていた特許権が既に満了を迎えていたり、商標権の更新を忘れていたりと、権利が失効していることが判明する場合がある。商標権の更新時期が事業承継準備時期と重なる場合、人員が不足しがちな中小企業において指揮命令系統が十分に機能しないこともあり注意が必要である。また、下記の事例には掲載していないが、共有特許など、他の者と権利を共有している場合、持ち分の譲渡(承継)には他の権利者の事前の同意が必要であることにも注意が必要である(特許法第73条第1項等)。

事例⑧判明した商標権失効への対応
  • 業種:製造業
  • 従業員数:不明
  • 問題の所在:
    相談者(経営者)は高齢となり第三者への事業承継(事業譲渡)を検討中。現在販売している商品は、過去に特許出願を行ったが権利化できていないため、改良アイデアを権利化したうえで譲渡交渉を有利に進めたいと考えている。
  • INPIT の支援:
    特許権については、J-PlatPatなどによる先行技術調査などの方法を説明。また、特許以外の権利について確認したところ、登録料不納により持っていた商標権が失効していることが判明したため、速やかな再登録手続きについて助言。
事例⑨商標更新登録料の納付の失念及び個人名義への対応
  • 業種:卸・小売業
  • 従業員数:21~50人
  • 問題の所在:
    既に事業承継のプロセスに入っており、相談者(経営者)は本社とは異なる場所で執務している状況。このような社内指示系統の移行期において、商標更新登録料の納付指示が経理に伝わらず失念されてしまった。また、所有している商標権について、マイナンバーカードを使った手続きの簡便さから、法人ではなく経営者個人名義で登録されていたことが判明。
  • INPIT の支援:
    商標権存続期間更新登録申請書(補充)の書き方をひな型に沿って説明。また、商標権の名義については、 法人名義で商標権を保有していれば、経営者が変わっても特段の手続きがいらないといったメリットがある点や法人電子証明書の取得が以前よりも容易になり発行手数料が値下がりしたこと、更に個人名義の知的財産権は相続の対象になることなども説明。

産学連携

産学連携で生じる問題としては、事業者同士の連携で生じる問題と重複する部分も多いが、知財を使って利益を上げることのできる事業者と基本的にはビジネスは行わない大学等の研究者という立場の違いから知財の実施にかかる条件面で意見の相違が生じることや、論文発表と特許出願のタイミングで問題が発生することがある。また、大学等の職務発明規程対象外となる学生が共同研究等に関与した場合には、発明等の学生貢献分の扱い(持分譲渡等)や秘密保持等の観点から問題となることがあり、別途手立てが必要になることもある。対策としては、これらの状況を十分認識したうえで、研究開発が始まる前のタイミングで共同研究契約等を通じて諸条件についてできる限り事前に取り決めておくことである。

1.共同研究成果の実施許諾条件についての見解の相違

大学などでは知財をビジネスに活用して利益を上げることが基本的に困難であることから、共同研究相手である事業者が知財を実施するにあたって、対価としての不実施補償を求めることがある。しかし、共同研究契約等において、不実施補償の条件について詳細に取り決めていない場合、実施の段階になって利益配分等で揉め事が生じてしまう。下記事例にもあるように、特許等の出願費用分担や第三者への実施許諾の自由度などの条件を考慮して不実施補償の設定の有無やその内容を決めることになる。また、特許等知財権の帰属については、共有特許などの形で貢献度に応じた持分を持つことになるが、実施時の機動性を高めるため、共同研究の参加者がそれぞれ行う研究開発内容の明確な線引きを行っておくことや、線引きが困難な場合に得られた共有の知財については適当な対価を支払うことなどによって、事業者あるいは大学側が単独で知財を所有することが有効となる場合がある。

また、下記事例にはないが、日本の特許法では、米国とは異なり、共有特許の他の共有者の同意がなければ、第三者へ譲渡したり、ライセンスしたりすることができない(同意がなくても自ら実施することは可能)。大学等アカデミアは自ら実施することは原則ないという点を踏まえ、共同研究契約等の内容を精査する必要がある。

事例①販売段階での大学側からのロイヤリティの要求
  • 業種:建設業
  • 従業員数:51-100人
  • 問題の所在:
    大学との共同研究開発の結果、素材に関する特許を取得。その後、自社で費用をかけて改良を施し量産化に成功したが、販売に当たり、大学から共有部分の不実施補償として、売上に対して自社にとっては過大と思えるロイヤリティを求められた。
  • INPIT の支援:
    このタイミングでの不実施補償要求の是非はあるが、大学との関係も踏まえ、ロイヤリティを支払う場合のロイヤリティの算出要素(業界における実施料の相場、発明の価値、共同研究成果の売上への貢献度等)を精査し、ロイヤリティを算出すべき旨説明。素材全体の販売価格ではなく、共同研究成果と言える素材製造に使用する薬剤の価格を基準として大学の貢献分に対するロイヤリティを算出する方向で大学側と交渉することとなった。
事例②大学側が提供した「ノウハウ」の貢献度に関する見解の相違
  • 業種:製造業
  • 従業員数:21-50人
  • 問題の所在:
    大学との共同研究を経て自社で開発した製品の事業化を目指していたところ、大学側が提供した「ノウハウ」に関する実施許諾契約の締結を求められた。しかし、そもそも大学に依頼していた共同研究の中身は試験体の評価試験の実施のみであり、今回大学側が提示してきた実施許諾契約案では、一時金及び製品売上に応じた実施料の支払いが要求されているものの、その支払根拠となる「ノウハウ」の具体的な内容や、大学側が主張する権利の範囲・持分が明示されておらず、相談者(事業者)としてはその妥当性を判断できない。
  • INPIT の支援:
    大学側に対し、①実施許諾の対象とする「ノウハウ」の具体的な内容、②そのノウハウに対する大学側の持分及びその算定根拠を明確にする旨の要求をすべきであると助言。大学側の主張に合理性が認められない場合でも、今後の大学との関係性を考慮し、単に支払いを拒絶するだけでなく、どのような形で交渉を進めていくべきか、戦略的な検討が引き続き求められる。今後の共同研究契約においては、契約締結前に大学側の協力範囲や費用負担、成果物の権利帰属などを明確に定め、実態に即した契約形態(例:共同研究契約ではなく、評価業務委託契約の形が取れないかなど)を選択することや、共同研究終了時点では、共同研究の成果物や貢献分について相手側と確認する必要性について助言。
事例③第三者への実施許諾が可能な条件下での大学からの不実施補償の要求
  • 業種:情報通信業
  • 従業員数:不明
  • 問題の所在:
    共同研究相手の大学との契約交渉時に、特許出願に関して、大学側から不実施補償の条項を入れるよう要求あり。一方、発明技術の実施については、大学から第三者への実施許諾が可能な状態となっていた。
  • INPIT の支援:
    事業者の独占的な実施が認められている場合には、不実施補償として大学側への支払いはありうるが、大学側から第三者への実施許諾が自由にできる場合には、不実施補償の在り方について大学側と交渉すべき旨助言。
事例④特許持ち分と権利取得費用のバランスの調整
  • 業種:製造業
  • 従業員数:5人以下
  • 問題の所在:
    高専との共同研究開発成果の事業化に際し、特許権取得に要した費用と利益のバランスについてどう調整すべきか相談があった。
  • INPIT の支援:
    高専が負担すべき権利取得費用分を事業者が高専に支払うべき実施料(不実施補償料)から控除する方法について説明。
2.共同研究成果の範囲、帰属についての見解の相違

産学連携に限らず、他者と共同研究を行う場合には、共同研究前から各当事者が有しているバックグラウンドIPと共同研究の成果として得られるフォアグラウンドIPを明確に区別しておかないと後になってもめることがある。産学連携として、事業者から大学に材料・製品などの評価試験や委託研究を依頼することもあるが、得られたデータや成果の帰属や利用条件等を決めておくことも重要である。

事例⑤共同研究先の大学との著作権の範囲についての見解の相違
  • 業種:自治体・関連機関
  • 従業員数:不明
  • 問題の所在:
    商品の販売システムに関し、大学との共同研究においてシステムの要件定義まで行った。一方、当該システムに関するソフトウェアの基本設計からプログラミングまでは、相談者が単独で業者に委託して実施。その後、共同開発先の大学から許諾料の支払いと大学での単独でのソフトウェア開発の意向が示された。
  • INPIT の支援:
    大学と共同で作成した要件定義書と相談者が委託事業者と開発したソフトウェアの著作権的な関連の有無の明確化、また、ソフトウェア開発に関して、大学と委託先業者との共同開発という整理ができないか、大学側と話し合うことを提案。
事例⑥大学に試験を依頼する場合のバックグラウンドIPの扱いの明確化
  • 業種:製造業
  • 従業員数:6-20人
  • 問題の所在:
    相談者(事業者)が着想した製品(仮の形状)について大学に実験を依頼。実験結果が良ければ、実際に市場化する形状にて本格的に大学に実験を行ってもらう予定。ただし、これまで秘密保持契約含め、大学側とは何ら契約を交わしておらず、どのように対応すればよいか不安に感じている。
  • INPIT の支援:
    市場化の際に実際に採用しようと考えている形状を大学側に開示するに際して、秘密保持を含む契約書を締結するとともに、当該形状については、相談者側のアイデアであること(バックグラウンドIP)を明らかにしておくことが重要である旨指摘。バックグラウンドIPの特定に際しては、特許出願後であれば、出願した特許の出願番号により特定し、特許出願前あれば準備中の出願にかかるクレーム及び明細書の原案を別紙としてバックグラウンドIPを特定することになる。更に、今後実験を本格化していった後、別の形状の方がふさわしいとなった場合における知財の帰属について大学との間で明確にしておく必要もある。
事例⑦大学へ研究委託を行った結果得られた発明の権利帰属について
  • 業種:自治体(県)
  • 従業員数:不明
  • 問題の所在:
    大学との間で締結した委託研究契約に基づいて、同大学に提供したデータから同大学が発明の着想を得た場合に、県は特許等の権利を主張することができるかという相談があった。
  • INPIT の支援:
    委託研究契約に記載された内容が大前提である旨説明。本委託研究契約では、委託研究により得られた知的財産は自治体に帰属すること、また自治体から大学に提供したデータについては目的外利用を禁止すると共に、仮に当該目的外利用により成果が得られた場合であっても、当該知財の権利についても県に帰属するものなっていたことから、自治体が特許等の権利を得られる可能性が高い旨指摘。ただし、発明に至るために、提供したデータの利用に加えて、更に追加的な研究開発が本委託研究契約のスコープ外になる場合には、委託元である自治体が完全に権利を主張できない可能性がある旨についても説明。
3. 研究成果公開のタイミングから生じる問題

大学等の研究者の研究成果の発表の場は学会や論文であるが、共同研究の相手である事業者としては、ビジネス上、まだ技術内容を秘匿していきたいにもかかわらず、論文が発表されてしまうことがある。また、当該技術について、論文発表時にまだ特許出願していない場合には、特許を受けるための重要な要件である新規性を喪失してしまうことにもなりかねない。

事例⑧特許出願前の論文発表等による新規性喪失危機
  • 業種:情報通信業
  • 従業員数:5人以下
  • 問題の所在:
    本事業者は大学発スタートアップで、システム開発を専門とする事業者。事業化に先立ち、知財総合支援窓口には特許取得の注意点等の相談に来られたが、やり取りする中で、同社の社員でもある大学教授が本システムに関連する内容を某雑誌に論文発表していたこと、また、本システムを他の機関において試験運用開始していたことが判明。特許の新規性喪失の例外規定を適用可能な特許出願期限が数か月先に迫っていた。
  • INPIT の支援:
    特許出願前に論文等で公表してしまった場合、1年以内に特許出願しないと、要件の一つである新規性が喪失してしまう旨説明し、事業者側が早急に検討を進めることとなった※。
    ※特許の新規性喪失の例外については、日本や米国では自己開示の場合等に対して一定の救済措置が設けられているが、中国や欧州などのように、極めて限定的または救済措置なしといった国があることに注意が必要。
事例(8)
4. 共同研究に関与した学生の扱い

大学等アカデミアの特徴は学生の存在である。通常、学生は組織の職務発明規程等が適用されないため、学生が共同研究に関与する場合には、発明等の学生貢献分の扱い(持分譲渡等)や秘密保持契約等を学生向けに別途手当てする必要がある。更に、留学生が研究に関与する場合には、貿易管理または経済安全保障の観点から、アクセスを可能とする技術情報等を精査する必要がある。

事例⑨共同研究相手の職業高校の学生に対する秘密保持契約の不適用についての認識不足
  • 業種:卸・小売業
  • 従業員数:101人-300人
  • 問題の所在:
    工業高校との共同研究の成果に関して、特許権の帰属や今後の高校側の研究活動に対する権利行使の扱いの覚書を締結するにあたり、共同研究に参加した学生に対する秘密保持義務の扱いが論点に。
  • INPIT の支援:
    学生の発明は職務発明には該当しないことから、学校や教諭との秘密保持契約締結だけでは学生に対する法的義務を課すことはできないことを説明の上、事業者と学生との間で別途取り決めることが必要となる秘密保持義務については、抽象的な記載や努力義務にとどめる覚書的なものにするのか、詳細にルールを定めた秘密保持契約にするのか、事業者と学校間で意見のすり合わせを行うよう助言。
事例⑩大学と防衛関連の共同研究を行う場合の懸念
  • 業種:製造業(情報通信機器)
  • 従業員数:不明
  • 問題の所在:
    相談者(事業者)は防衛関連の技術開発を大学等の他機関と行う意向を有しているが、本分野に関する他の機関との共同研究開発の経験が浅いため不安を抱えている。
  • INPIT の支援:
    大学は、事業者に比べて機密管理が相対的に甘い場合があることに加え、留学生等の研究開発への関与の可能性を踏まえると輸出管理や経済安全保障の観点からも注意が必要であり、十分な事前の対策が必要である旨助言。
5. その他

研究・教育を担う大学等とビジネスを行う事業者の間では、組織カルチャーやルールに大きな違いがあることから、様々な問題が発生しうる。上記でも述べたように、共同研究の範囲や帰属等について、連携を始める段階で契約等による取り決めをしておくことが、以降の問題発生を防止することにつながる。また組織文化等が異なるからこそ、様々な問題に対して、コミュニケーションをよく図り、お互いが歩み寄る気持ちを持つことが重要である。

事例⑪共同研究開発契約を締結せずに共同開発を開始
  • 業種:医療・福祉
  • 従業員数:5人以下
  • 問題の所在:
    試料の成分分析に関する共同研究を大学と進めてきたが、特許出願に際して、大学側から100%費用負担を求められた。共同研究開発契約を締結せずに共同研究を進めてきたため、費用負担、権利の帰属等の取り決めがなかった。
  • INPIT の支援:
    :出願費用の負担等については、共同研究を開始する前に事前に取り決めておくべきであったこと、更に、特許成立後の特許権の帰属等についても取り決めておくことが好ましい旨助言。
事例(11)
事例⑫共同研究先の大学からのデータ提供拒絶
  • 業種:公設試
  • 従業員数:不明
  • 問題の所在:
    大学と共同研究契約を締結している公設試が、自身のウェブサイトで研究内容の一部を公開した際、共同研究相手の大学の研究担当教員名を掲載しなかったため、今後の研究に必要な分析結果の提供を拒まれている。
  • INPIT の支援:
    共同研究契約書の成果開示条項等の関連条項に関して、一般的な契約書解釈に基づき見解を示すとともに、一般的なトラブルの対応方法として、相手方へのアプローチ方法や進め方等についても助言。

オープン&クローズ

オープン&クローズ戦略とは、自社の技術・ノウハウを「開く部分(オープン)」 と「開かない部分(クローズ)」 に分けた上で、目指すべき状態に応じた適切な手段を講じることにより、市場拡大と自社の競争優位の両立を図り、事業上の成果の最大化を図ろうとする経営戦略のこと。

ここで、オープンとクローズという言葉については、代表的なものとして2種類の視点があることに注意が必要である。1つは、情報の公開・非公開性に着目した視点で、特許権の取得や論文等の公開をオープン、技術やノウハウを営業秘密等として秘匿することをクローズとする考え方である。特許権を取得すると、特許技術の利用を法的に独占し、他者に対して特許技術の利用を閉ざすことも可能になる一方、技術情報に関しては、出願から1年6ヶ月経過後には公開されてしまうため、他者が公開された情報を様々な形で知らないうちに活用する可能性もあるという前提で事業戦略を練る必要が出てくる。逆に特許出願をせずに技術を秘匿化(ノウハウ化、営業秘密管理)した場合、他者がその技術にアプローチできず、その技術を使った製品・サービスの普及が困難になることも考えられる。

オープン・クローズを巡るもう1つの視点は、技術の独占・非独占に着目したもので、特許権有無にかかわらず、他者へのライセンシング(実施許諾)等によって保有する技術やノウハウを他者も利用可能にすることをオープン、他者へのライセンシングをせずに自身で独占することをクローズとする考え方である。このような考え方の下、保有する技術やノウハウのライセンスを他者に提供し(時には無償で技術等の提供を行う場合もある)、場合によっては規格化(標準化)も進めつつ、市場拡大を図るというオープン戦略や、逆に保有する特許権を自社で独占するクローズ戦略を技術毎に織り交ぜながら自社ビジネスの利益の最大化を図るべく戦略を練ることが重要である。

また、上記2つの考え方のいずれであっても、オープンとすべきか、クローズとすべきかの判断は、競合企業の技術レベルの進展や製品ライフサイクルなどの状況によっても変わり得るものであり、一旦決めた方向性も必要に応じて柔軟に見直すことが求められる。そして、技術をその属する事業環境で俯瞰した上で、どの技術箇所・技術内容をオープン又はクローズとするか判断し、オープン部分とクローズ部分の組み合わせの妙(相互作用)により、市場拡大と自社の競争優位の両立を図ることが肝要である。

1.特許出願するか、ノウハウ管理するかの判断基準

自社開発した製品や製法を公開が前提となる特許出願するか、自社のノウハウとして管理するかは悩みどころである。あらゆるケースに万能に当てはまる基準はないが、一般的には、権利侵害が容易に発見できる場合には、特許権の取得が有効であるとされている。逆に、他者の工場の立ち入りが困難であることを踏まえると、製品の製法のような権利侵害の発見・立証が容易でない場合には、特許出願ではなく、ノウハウ管理とする方が適切な場面もある。また、我が国の特許は先願主義であることから、他者も思いつきそうな技術は勿論、製品の分解や分析の結果、容易に技術的内容が明らかになってしまうような技術については、迅速に特許出願しておいた方がよいことが多い。

事例①菓子材料の製造レシピの特許出願に関する相談
  • 業種:製造業
  • 従業員数:不明
  • 相談内容:
    新しく考案した菓子材料の特許出願について助言が欲しい。
  • INPIT の支援:
    菓子材料の製造レシピに関する現状のアイデアを特許出願すると、仮に特許登録ができたとしても一定期間後に公開されて他者に模倣されてしまう可能性があるため、特許出願はせずに、当該アイデアを含むレシピをノウハウとして保護する方法もある旨助言。その際、技術流出防止のため、社内での厳格な営業秘密管理体制の構築が重要である旨説明。また、当該レシピを将来的に他人が権利化する場合に備えて、先使用権をスムーズに主張できるよう、公証役場で自社が本レシピを開発した旨についての日付の確定を図ることも可能である旨助言。
事例②新たな建設施工方法に関する権利化の相談
  • 業種:建設業
  • 従業員数:6-20人
  • 相談内容:
    市販の薬剤を使った新たな施工方法について、どのように権利化すればよいか相談したい。
  • INPIT の支援:
    新規性・進歩性を有すれば、特許化できる可能性があるが、特許内容の公開後に同業者が本件施工方法を模倣して実施することが可能となる一方、外部からはその発見が非常に困難であり、特許に基づく排他性が現実的には低くなりうる点が要注意ポイントである旨助言。特許権の有効性を高めるための方針として、施工方法ではなく、当該施工の結果として新たに生じる断熱部材の特徴(つまり「物の発明」)の特許化を目指す(その場合、侵害の証明が比較的容易)やり方もある旨説明。
事例(2)
事例③自社開発した建設用土の権利化に関する相談
  • 業種:建設業
  • 従業員数:21-50人
  • 相談内容:
    自社開発の建設用土の権利化について相談したい。
  • INPIT の支援:
    開発品の製造方法が製品そのものから分析することができない(他社の模倣が困難)のであれば、ノウハウとして出願しないことも選択肢の一つであることを説明。一方、工事実施に当たって、複数の協力会社を募って本製品の活用を図っていく必要があるのであれば、技術流出を防止するために特許取得して自社で権利化しておくといった考えもありうる旨助言。ただし、特許出願後にその内容が公開されることを踏まえ、出願にあたり不必要に詳細な技術情報(詳細な実験データや製造方法など)を盛り込む必要はない旨助言。
2.秘匿化する場合の技術流出対策の徹底

秘匿化を決定した後は、自社に重要な営業秘密として、該当するノウハウ等について徹底した情報漏洩、技術流出対策を図ることが必要。営業秘密管理として、該当するノウハウ等(営業秘密)及びそれにアクセスできる者を特定し、厳重に管理する必要がある。また、下記の事例のように、社外に流出しないよう、工場見学や展示会出展の際にアクセスできる技術領域等に制限を設けたり、社外関係者(協力工場、販売代理店等)と秘密保持契約を締結する(その際であっても、開示内容は社外関係者の協力継続が可能となる範囲にとどめ、真に重要な情報は開示しない)などの対策が必要となる。

事例④自称容易な発明の権利化についての相談
  • 業種:製造業
  • 従業員数:51-100人
  • 相談内容:
    機械のアタッチメントを自社開発したが、簡単な構造であるため特許権取得は難しいと思うものの、知財管理について相談したい。
  • INPIT の支援:
    本技術については特許出願可能なレベルと考えられるが、技術アイデアとしては製法に関するものであったため、特許公開後に模倣品が出た場合に、他者の工場に入り込んで権利侵害を証明することが困難であるという状況もあ りうることから、ノウハウとして秘匿するというやり方もある旨説明。ただし、秘匿を選択する場合、徹底した社内外での秘密保持管理が必要であり、対外的に技術内容を発表したり、工場のコア部分への他人の立ち入りを許可したりといった不用意な技術流出に繋がらないよう十分な対策が欠かせない旨助言。
事例⑤販売代理店を通じた技術情報漏洩の可能性への対応に関する相談
  • 業種:製造業
  • 従業員数:51-100人
  • 相談内容:
    :新しく自社開発した装置に関して、自社の国内販売代理店が競合他社に販売したという情報をつかんだため、技術情報が他社に漏れることを心配している。なお、国内販売代理店とは競合他社には技術情報を漏らさないよう口約束しか交わしていない。
  • INPIT の支援:
    コア技術をノウハウとして秘匿化する場合は、販売代理店や装置の加工の下請け先と秘密保持契約を交わしてコア技術の流出を防止することが基本だが、秘密保持契約を締結したとしても情報が絶対漏れないとは言い切れないため、今後他者が特許出願する可能性も踏まえ、先使用権主張のための証拠を準備しておくことが重要である旨助言。
3. 他者へのライセンシングや標準化の効果的活用

製品やサービスの市場拡大を図るためには、特許権であってもノウハウであっても、技術のライセンシングや標準化(規格化)の効果的活用により、“お仲間”を増やすオープン戦略が有効となる場合がある。ただし、他者に対して何をオープンにして、逆に何を自社の中でクローズ(独占)するのかを戦略的に使い分けすることが極めて重要である。

また、ノウハウのライセンシング交渉は、ノウハウ自体を全部開示せずに行われることが多いことから、交渉相手に価値が理解されにくく、ライセンス後についても相手側による守秘義務の徹底が課題になることが多い点には注意が必要である。その意味では、可能であれば特許とノウハウを組み合わせたライセンシングがより効果的となることが多い。

標準化の活用については、社内リソースや業界での影響力に限りのある中小企業にとっては必ずしも取り組みやすい手段ではないが、他の有力な企業やアカデミア等を巻き込むことにより標準化を進めることが可能になる場合もある。一方、下記の事例(8)にもあるが、標準化を普及する過程において詳細な技術情報の流出が起こり、他者のキャッチアップを招く懸念もあるため(参考1)、標準化した部分との境界領域(インターフェイス)になりうるコア技術に関しては、自社で特許を取得して権利を確保したり、他者の権利侵害を証明するのが困難な場合には、逆に技術の秘匿化を図るなどの戦略的な対応が求められる(参考2)。

(参考1)デジタル製品分野での市場拡大を目的とした規格化などによる技術のオープン化が部品のモジュール化を促進し、他国によるキャッチアップを容易にした側面もあると言われている。
https://www.inpit.go.jp/content/100885456.pdf

(参考2)経済産業省が公表している、「オープン&クローズ戦略」事例集によると、QRコードに関して、「①QRコードの基本仕様を標準化し、無償で提供。②QRコードの読み取り技術はブラックボックス化し、読み取り機やソフトフェアを有償で販売。」というクローズ領域の周辺をオープン化する戦略が図られたとされている。
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/sesaku/open-close/index.html
事例⑥新技術のライセンス事業立ち上げに関する相談
  • 業種:製造業
  • 従業員数:51-100人
  • 相談内容:
    脱下請を目指しており、自社開発した成形加工技術のライセンスビジネスを立ち上げたい。
  • INPIT の支援:
    相談者が事業を行っている自治体の中小企業支援機関とINPITが支援チームを結成し、今後のビジネスモデルやヒト・モノ・カネに関する支援を実施。ライセンシング(オープン戦略)を進めたい成型加工技術については、PR動画や展示会での紹介では技術の核心部分の開示は行わず、関心を持った企業との間で個別に秘密保持契約(NDA)を締結した上で開示するべき旨助言。一方、相談者に対するヒアリングを通じて、本件成形加工技術に関連して、シミュレーション技術も独自に開発されていることが判明。本シミュレーション技術については、今後の主力事業として自社に留める(クローズ戦略)ものとして、オープンにする技術とクローズする技術を使い分けて今後の事業展開を検討することとなった。
事例⑦標準化と権利化の使い分けに関する相談
  • 業種:技術サービス業
  • 従業員数:不明(中小企業)
  • 相談内容:
    国の支援の下、機械の安全かつ効率的な運用を行うための基盤技術の研究開発とガイドラインの策定を産学連携で行っているが、どのような知財活動を行えばよいか相談したい。
  • INPIT の支援:
    事業基盤(市場)の拡大を図るためには、ガイドラインの公開など、グローバル規模での技術標準化が重要。ただし、標準化する場合でも、全ての技術を標準化の対象とするのではなく、高度な技術仕様は他社と差別化を図る武器として権利化の上自己実施するか、他社へライセンシングするといった戦略を構築することも有効となりうる旨助言。
事例⑧評価方法の規格化の失敗の経験を踏まえた知財戦略についての相談
  • 業種:その他サービス業
  • 従業員数:51-100人
  • 相談内容:
    中古部品の評価方法が確立しておらず、不具合の程度等にかかわらず同一型式同一価格という状況が過去にあったため、海外企業の協力も得て規格を制定した。しかし当時は戦略的な考えを持たずに規格化(標準化)を進めてしまったため、手間や費用が高くついた割には自社のメリットを得られないという結果になってしまった。また、規格化に伴い、海外の関係者に対して、詳細に作成した資料(文書や動画)で教育研修なども行ったため、資料等が海外の同業者などに流出し てしまうということも経験した。その時の経験も踏まえて、中古部品の評価/流通システムを再構築するつもりだが、規格化はせず、国内指定業者のみに利用してもらおうと考えている。
  • INPIT の支援:
    自社の技術やノウハウを精査して、権利化する部分と秘匿化する部分を区別し、秘匿化する部分については、営業秘密管理を厳格に行うことの重要性を説明。
事例(8)

[最終更新日:2026年7月23日]

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